ことばメモリ

音楽、小説、漫画などで考えたことをまとめます

Cocco 「首。」における凄まじいブレスについて

1.基本情報

ブーゲンビリア

ブーゲンビリア

2.導入

Coccoのファーストアルバム「ブーゲンビリア」に収録されている曲、「首。」について考察する。
Coccoは、

1997年 ブーゲンビリア
1998年 クムイウタ
2000年 ラプンツェル
2001年 サングローズ
2001年 ベスト+裏ベスト+未発表曲集

と、第一作目のアルバムを発表した後、たった4年間で世の中を文字通り変えたアーティストである。
彼女の曲、パフォーマンスの、一体なにが人をここまで惹きつけるのだろう。

中学2年生だった当時、「raining」をはじめて聴いたときの衝撃が忘れられない。
彼女の圧倒的なエネルギーにぶん殴られて起こした眩暈を、今でも引きずっている。
それがこのブログを書く原動力にもなっている。

この考察は別に論文ではないので、堅苦しい文法にはとらわれずに作品の世界に踏み入りながら考えてみたい。
私は、彼女の作品の魅力は、「愛情の欠乏」と、「自身の救済」にあると考えている。
(この記事ではここまで書くことはできないので、まず一曲について書いてみる)

3.ファーストアルバム「ブーゲンビリア

1.首。
2.カウントダウン
3.走る体
4.遺書。
5.Rain man
6.ベビーベッド
7.SING A SONG~NO MUSIC,NO LIFE~ 
8.がじゅまるの樹
9.眠れる森の王子様~春・夏・秋・冬~
10.やわらかな傷跡
11.ひこうきぐも
12.星の生まれる日。

3-1.「首。」という曲

有名な曲としてはやはり、「カウントダウン」「遺書。」であろう。
だがあえて一曲目の「首。」に着目して述べてみたい。
彼女の記念すべき一作目のアルバムの一曲目、ということで着目するのもあるが、私はこのアルバムでこの曲が一番好きなのだ。

歌詞の全体については下記サイト参照。
すべてをそのまま記載するのは著作権にかんがみて憚られるため、必要に応じて引用して記載する。
首。 Cocco - 歌詞タイム

抱きよせて 絡まって
引き裂いて 壊したい。
悩ましく 誘って
蹴落として 潰したい。
あなたと見た海に
その首を沈めたい。

曲は静かなヴァイオリンストリングスから、
いきなり重低音のベース、ゆがんだギターとともにハードロック風なサビが展開される。

このアルバムを聴く人は、有無を言わさぬ暴力的な歌詞と音に殴り掛かられるわけだ。女性がヒステリックに暴れる姿を想像する人もいるだろう。
「抱き寄せておいて、壊したい。
誘っておいて、潰したい。」
という一見矛盾した心理状態だが、愛の狂気に狂った女ならやりかねない、ということもまた、理解できそうな気がする。
愛していた男に裏切られたのだろうか?
恋人と一緒に行った海も、怒りの激情のもとでは復讐の舞台になってしまう。

餓えている ベッドの中で
夜毎ほら 干からびていく。

女は、男を失ったことで心身ともに欠乏感にさいなまれている。後にも

ずっと舐め合って
濡れながら悶えたい。

とあるように、明らかなセックスに対する欠乏と狂おしいまでの憧憬がある。

3-2.一番の聴き所

この曲の一番の聴き所は、

a.これからも これから先も
b.私ほど純粋(キレイ)な女(ヒト)に
c.会えるわけ ないことぐらい
d.わかっているでしょ?
e.目を覚ましてよ

この部分だと思っている。
これまでの激しい曲調が一転、「a.これからも~」で静かになり、
「c.ないことくらい」ギターのスラッシュ音とともに激情が爆発する。

a,b の部分は、裏切った男を目の前にして、冷静に話をしようとして、相手に許しを与えようとするような、
やさしさの感情が入る。
のだが、
c の部分からはやはり怒り爆発。抑えていた感情があふれてしまい、
わかっているでしょ? 目を覚ましてよ と相手に懇願するように訴える。

この辺りの舞台的な表現力はすさまじいものがある。
噛んで含めるような語り口はぜひもう一度、この部分だけでも聴いていただきたい。
私はCoccoのビブラートとブレス(息継ぎ)がかなり好きなのだが、この部分に着目して聴くと、

(※単位は聞こえた音を1で数えていますが、フィーリングでお願いします。
これを書くために100回聴きました)

これからも 3ビブラート +1ブレス(吐き)
これから先も 1ビブラート +1ブレス(吐き)
私ほど 1ビブラート +1ブレス(吐き)
純粋(キレイ)な女(ヒト)に 1ビブラート +1ブレス(吐き)+1ブレス(大吸い)
会えるわけ 3ビブラート +1ブレス(吐き)
ないことぐらい 1ビブラート +1ブレス(吐き)+1ブレス(大吸い)

この「大吸い」がたまらない。(大パンチ的なニュアンスを感じ取ってください
Coccoのブレスは、カタカナで表記したら「ヒイ」とか「ハア」とかそのままありのままで、
ここを隠さないところが、怒りに狂う女を歌う歌にすさまじいまでの説得力を与えているのだ。
(文字に起こしてしまうと某芸人が浮かんでしまうが)

特に「ないことぐらい」の後がとてもよい。

このように聴き入りながら、髪を振り乱して歌う歌手を、あなたはどう思うだろうか。
どう考えても恐ろしいのだが、
この歌詞と曲とパフォーマンスが織りなす世界からもう目が離せなくなってしまう。
こいつらは、どんなことをやらかすんだろうか。
アルバムはまだ始まったばかりだが、次はどんな曲なのか。
そして始まるのがかの名曲「カウントダウン」である。

おそらくだが、「カウントダウン」で撃ち殺されそうになる男と、
この「首。」の男は同じ人物なのだと思う。

激情の歌手Coccoの一側面、「怒り」(欠乏が背景)がここにある。
実はこのアルバムの中でCoccoは(とりあえずいったん)落ち着いているので、とりあえず聴き手は安心できる。
それについては、また別途述べる。

Cocco について

Coccoという歌手 

 

独特でダークな詩、攻撃的とも言ってよい激情の歌詞に度肝を抜かれ、

ハードロックさながらの激しいギターサウンドとミュージックワークで、

Coccoの曲は一度聴いたら忘れられませんよね。

 

彼女の作った世界観にまんまとヤラれてしまった方も多いのではないでしょうか。

 

かくいう私もその一人です。

中学生だったころ、「raining」がラジオから流れてきたときの衝撃は今でも忘れられません。

そこからずっと聴いています。

 

宿題のように、あるいは食べきれない塊肉のように私の臓腑に残っており、

それ以来ずっと曲と詩の意味を考え続けています。

 

追って、アルバムごとに書くつもりです。

 

ということで以上です。